ドラッカー7つの教訓(後編)

ドラッカー7つの教訓(後編)

上田惇生(ものつくり大学教授)

 

(『致知』2003年12月号 特集「読書力」より)

世界のビジネス界に大きな影響を与えているドラッカーですが、
その思想形成に当たっては人生の中で
七回の精神的な節目が訪れたことを著書の中で述べています。

その七つの経験から得た教訓を最初に列記すると、
以下のようになります。

 一、目標とビジョンをもって行動する。

 二、常にベストを尽くす。「神々が見ている」と考える。

 三、一時に一つのことに集中する。

 四、定期的に検証と反省を行い、計画を立てる。

 五、新しい仕事が要求するものを考える。 

 六、仕事で挙げるべき成果を書き留めておき、
    実際の結果をフィードバックする。

 七、「何をもって憶えられたいか」を考える。

四つ目の節目は新聞社勤務時代でした。

当時、ドラッカーが大きな影響を受けたのは編集長でした。
この編集長は毎週末、部下一人ひとりと差しで
一週間の仕事ぶりについて、また一月と六月には
半年間の仕事ぶりについて話し合いました。

優れた仕事から始まり、一所懸命やったこと、
反対に一所懸命やらなかったことなどを次々に取り上げ、
最後に失敗やお粗末な仕事ぶりは徹底して批判しました。

この中で記者たちは、今後の仕事で

「集中すべきことは何か」
「改善すべきことは何か」
「勉強すべきことは何か」

を探るのです。

彼がこの差しの討議の意義に気づいたのは、
随分時間が経ってからでした。

アメリカに移り、大学教授やコンサルタントの仕事を
始めてからだといいます。

以来、夏になると二週間ほど時間をつくり、
コンサルティング、執筆、授業について一年を反省し、
次の一年の優先順位を決めるのが習慣になりました。

五つ目の経験は「新しい仕事が要求するものを考える」
大切さを知ったことです。

ロンドン時代に証券会社から投資会社に移った時、
上司からこう言われます。

「君は思っていたよりもはるかに駄目だ。あきれるほどだ」と。

やがて彼は叱責の理由が、新しい仕事に移ってからも、
証券アナリストとしての仕事ぶりから
抜けきれないことにあったと気づきます。

これをきっかけに、新しい仕事に取り組む際は、

「この仕事で成果を上げるには何をしなくてはならないか」

と自問するようになるのです。

六つ目はアメリカでヨーロッパ史を学んでいた時、
近世のヨーロッパで力をつけていた
カトリック系のイエズス会とプロテスタント系のカルヴァン派の二つが、
奇しくも同じ方法で成長を遂げたことを知ったことでした。

両派の修道士や牧師は何か大きな仕事をする時には、
期待する成果を書き留め、一定の期間が過ぎた後、
結果と期待を見比べることで自分は何ができるか、
何が強みかを知っていたのです。

ドラッカー自身、この方法を実践し自らの強みを知り、
それをいかに強化するかに努力しています。

ドラッカーが七つ目に挙げた経験は、
小学校の頃、宗教の先生から聞かされた言葉でした。

「何をもって憶えられたいか」です。

同じことは彼が四十代の頃、父親と、その教え子であって、
かつ友人である経済学者シュンペーターとの会話でも耳にしたといいます。
ドラッカーの父はシュンペーターに質問しました。

「自分が何によって知られたいか、いまでも考えることはあるかね」と。

というのは、シュンペーターは若い頃
「ヨーロッパ一の美人を愛人にし、ヨーロッパ一の馬術家として、
そしておそらくは世界一の経済学者として知られたい」
と言っていたからです。

その質問に対するシュンペーターの答えは

「昔とは考えが変わった。
 いまは優秀な学生を一流の経済学者に育てた教師として知られたい。
 理論で名を残すだけでは満足できなくなった。

 人を変えることができなかったら、
 何も変えたことにはならないから」

というものでした。

ドラッカーはこの会話から

「人は何によって知られたいかを自問自答しなくてはならない」

「その答えは年を取るごとに変わっていかなければならない」

「本当に知られるに値することは、人を素晴らしい人に変えることである」

の三つを学んだのです。

彼のこの七つの経験のうち三つまでが
読書によって培われたものでした。

彼は若い頃からハンブルク市立図書館の本を
全部読んだのではないかと言われるほど大変な読書家でした。

二十九歳の時の処女作『経済人の終わり』に、
プラトン、ソクラテスなどのギリシャ哲学から
ヒトラー、ムッソリーニまで二百人以上の思想と言葉が
紹介されていることをみても、それが理解できます。

数々の著書が生まれる背景に、
膨大な読書に培われた知識があることは
疑う余地がありません。(談)

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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