一つひとつのお菓子に丹精を込める

一つひとつのお菓子に丹精を込める

河田勝彦(オーボンヴュータンオーナーシェフ)

      

『致知』2014年9月号「万事入精」

帰国にあたって、僕はそれまでの日本の菓子屋とは
全く違うことをやっていこうと考えていました。

とはいえ、その頃は一円のお金もなかったので、
最初から店を出すのは無理だろうと。
機械の加工業をやっていた兄にお金と家を借りて、
同じ時期にフランスから帰国した仲間二人と
浦和で菓子の卸売業からスタートさせました。

自分たちでお菓子を作り、
それを菓子屋やレストランに
置いてもらえるよう営業して回る。
腕には自信がありましたが、
最初の三年間は売り上げが厳しかったですね。
なので、知り合いから紹介してもらった
料理の専門学校やお菓子メーカーの
講習会で菓子作りを教え、
いただいた報酬をみんなの給料に充てていました。

ーー ご自身の収入を切り詰めて。

ありがたいことに四年目あたりから
徐々に売れ始め、
経営も黒字に転換したんです。
その僅かばかりの貯金と、
銀行から融資を得て、
三十七歳の時にお店を開いたわけです。
まあ、開いたはいいけど、
そこからがもう大変で、
作ったお菓子は見事に売れない。

売れ残ったものは近所の人に
配ったりしていましたが、
それでも余るもんだから
捨てざるを得ないんです。
自分で作ったお菓子を捨てるというのは
本当に辛かったですね。
最初の十二年くらいは売れませんでした。

ーー ああ、十二年も。

店を開いてからも卸売業を
引き続きやっていたので、
それで何とか生計を立てていたんです。

だから当時は一日十七、十八時間くらい
働いていました。
僕の休みは一月一日だけで、
あとはずっと仕事です。
そんな生活が十年以上は続きました。

売れないと自分のやり方を変える人がよくいますが、
不器用な僕には変えられなかった。
他の方法論を知らないんです。
だから自分の作りたいお菓子を
作り続けることしか、僕にはできませんでした。

ーー ご自身の信念を貫かれた。

そうやっていくうちに
少しずつファンがついてきたんです。
で、これは僕が頼んだわけでもないし、
どういう理由かさっぱり分からないんだけれども、
あるテレビ番組でうちの店が紹介された。
これが一番大きかったと思います。

その日を境に、まあたくさんの
お客様が来てくださってね。
毎日ショーケースのお菓子は空っぽ。
あまりにも急な出来事だったもんですから、
とにかくみんなに「作れ、作れ」と。
毎日終わるのは夜中の二時、三時。
また次の日も空っぽ。
そのサイクルが一年間続きました。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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