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成功する人と 成功しない人

佐藤正樹(佐藤繊維社長)

      

(『致知』2014年1月号「君子、時中す」より)

佐藤 山形に戻って四、五年経った頃でしょうか、
   私はある糸に魅せられました。
   これはどこで作ったのだろうと問い合わせてみたら、
   取り引きのあったイタリアの工場の糸だと。

   自分のところにしかないオリジナルの糸を作る上で
   ヒントを得られるのではないかと思った私は、
   イタリアに飛びました。
 
   ちょうど世界の糸の最高峰と呼ばれる
   ピッティ・フィラーティー展が開かれていたので、
   それに合わせて糸を作っていたメーカーを訪問したのですが、
   この時、私は大変な衝撃を受けたんですね。
   人生の一番の転機になったのはこの時だったかもしれません。

   驚いたことに、工場に並んでいたのは
   我が社で使われているのと変わらない機械でした。
   その代わり、どの機械にも
   職人たちが加えた独自の工夫の跡があったんです。
   ギアなどの部品を替えたりしながら、
   独自の糸を作っているわけです。
 
   工場長が親切な人で
   「この糸を手に取ってご覧なさい」と
   実際に糸を触らせながら、
   この糸がなぜここまで美しくなるのか、
   どうやって製造するのかといったことまで、
   実に細かく丁寧に説明してくれました。
 
   私の目を見て熱く語る工場長の姿を見ながら、思いましたね。
  「ああ、俺たちはアパレルに言われるがままに
   物作りをやっているけれども、
   それとは全く別の発想で生きている人だ」と。
 
   そう考えていたら、工場長は
  「私たちが世界のファッションのもとを作っているんだ」と
   力強く言うわけです。
   この言葉も衝撃的でした。

   だって日本でいう工場のイメージは
   「これを作ってくれ」「はい分かりました」と黙って頭を下げる、
   というものでしょう。
   
   だけど、この工場長には
   そういう雰囲気は微塵もない。
   自信と誇りに満ち溢れていました。

  「物作りの現場から世界を変えていくことは
   不可能ではない、自分もこの道を歩いて行こう」と
   強く思ったのはこの時が最初でした。

   日本に帰って、早速社員を集めて
  「俺たちも人から言われたものではなく、
   自分たちだけの糸を作ろうじゃないか」と訴えました。

   でも反応は冷ややかでしたね。
  「社長の息子がイタリアにまで行って
   変な風邪に感染されて帰ってきた」と(笑)。

   いま思うと、新しいオリジナルの製品を作るのも大変でしたが、
   それ以上にスタッフの心を変えていくのが大変でした。

   第一、私が言っていることが正しいとは
   誰も思っていないわけですよ。
   いままでの仕事で食べていけるから、
   このままで十分という感覚なんです。
   
   だけどバブルが崩壊し、
   このまま行ったら絶対にこのビジネスは
   なくなるという危機感が私にはありましたから、
   ここは意地でも皆の意識を変えないといけないと思いました。

   そこで、ある一人のベテラン職人を粘り強く説得しました。
   ところが彼の口からは
  「これだからできない、あれだからできない」と
   できない理由が次々に出てくる。

   イタリアの工場長だったら、
   そんな理由は言わないはずなのに、
   と思うと腹立たしくもなりました。
 
   いろいろな人と接していて感じるんですが、
   物事を成功させる人は
  「どうやって作るか、どうやったらできるか」という方法を
   常に考えています。
   
   逆に成功しない人は、
   できない理由を次々に並べ立てる。
   これは要は「作りたいか」「作りたくないか」という問題で、
   うちのスタッフは全く作る気がないわけです。

  「でも絶対に作ってもらわなくては困る」という
   私の説得に応じて、彼は渋々作り始めたわけですけれども。
 
   それで三か月くらいした頃でしょうか、
   彼が私の部屋に突然入ってきて、
   無言のまま机の上にバンと何かを置きました。

   それが、なんと新しい糸だったんですね。
   私も驚いて、思わず振り返って
  「できたじゃないか。凄いね」と叫びましたよ。
   入社以来何十年もの間、
   言われたことしかしてこなかった五十代後半の職人が
   初めて自分で物を考えて、挑戦した。
   そうしたらそれができちゃった。
   五十代にして物を作る面白さに覚醒したわけですね。
 
   彼はいまも職人のトップですけれども、
   もし彼が覚醒しなかったら、
   いま頃会社はなかったかもしれません。
   そこから二人での物作りが始まり、今日に至っています。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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