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路上から武道館へのキセキ

宮崎奈穂子(歌手)

      

(『致知』2012年12月号「活路を見出す」より)

二〇一二年十一月二日、私は音楽の聖地・日本武道館のステージに立っていました。
音楽活動を始めて六年、無名でヒット曲もない二十六歳の私が
なぜ武道館で単独ライブを行うことができたのか。
それはひとえに、数え切れないほどの方々の恩沢があったからに他なりません。

物心ついた時から「歌手になりたい」と憧れを抱いていました。
けれど、私は地味で目立たないタイプの人間。
周りには恥ずかしくて言い出せず、
次第に「どうせ歌手になんてなれるわけがない」という
気持ちが芽生えるようになりました。

ところが、大学二年となり、進路について考えるようになった時、
自分の気持ちを誤魔化せなくなったのでしょう。
このまま何もしなかったら後悔する。
だったら、とにかくいま動こう。
そう決意し、音楽活動を本格的にスタートさせました。

カラオケで録音したデモテープを片っ端からレコード会社に送りましたが、
当然の如く音沙汰はありません。
そんな生活が延々と続き、一年半。
ある日、当時通っていたボーカルスクールの
オーディションで運よく担当者の目に留まり、
CDデビューをすることになったのです。

とはいっても、無名の歌手が
CDを出しても誰も買ってくれません。
そこで私は路上ライブを始めることになりました。

大学三年の時、初めてマイク片手に渋谷の路地に立ちました。
誰もが無関心そうに目の前を通り過ぎていき、
第一声がなかなか出せない。
いざ歌い始めたものの、冷たい視線が心に苦しく、
いますぐ逃げ出したい……。
そう思いながら二曲を歌い切り、
片づけ始めたその時、
スーツ姿の男性が近づいてきて、こう言ったのです。

「いい歌ですね」

私は嬉しさのあまり、
込み上げてくる涙を抑えることができませんでした。
その方は社交辞令で言ってくださったのかもしれません。
でも、このひと言に私は救われ、
音楽活動を続けていこうと腹を決めました。

それから三年後のことです。
「武道館を目指してみない?」
所属事務所のマネジャーのこの言葉がきっかけで、
私は「武道館サポーターズファミリー一万五千人挑戦」
という試みをスタートさせました。
これは一年間路上ライブを行い、
サポーターを一万五千人集めれば、
武道館単独ライブを開催できるというもの。

一万五千という想像し難い数字を目の前に一瞬怯みましたが、
とにかく行動あるのみと、毎日のように街へ出かけていきました。
誰にも足を止めてもらえなかったり、
「武道館なんて無理」
「あなたの歌からは何も伝わってこない」と言われたこともあります。

そんな時、頭の中を駆け巡るのは「休みたい」という思いでした。
しかし、私は雨の日も、雪の日も、嵐の日も、猛暑の日も歌い続けました。
サボってしまうと、出会いのチャンスを逃すことになる。
手を抜いたら、手を抜いた未来しか待っていない。
これはどんな仕事にも共通することだと思います。

そんな姿勢が天に通じたのでしょうか。
ある日、路上ライブを終え、帰ろうとしていた時、
一人の男性がCDを買ってくださいました。
名刺交換をすると、その方はローソンの販売促進の担当者でした。

奇しくもその頃、応援してくださっている方の一人が
ローソンの「ツイリク」(ツイッターで楽曲をリクエストし当選すると、
それを店内放送してくれるサービス)を見つけてきてくださり、
「これなら自分たちにもできる」と、
ファンの方々が一斉に私の歌をリクエストしてくださっていたのです。

二つの出来事が重なり合い、
私の楽曲が全国のローソンで流れるようになりました。
これが一つの大きな転機となり、
二〇一一年十二月一日、
遂に武道館単独ライブが決定したのです。

しかし、そのことに対して素直に喜べない自分がいました。
確かに夢だった歌手にはなれたけれど、
歌手として何を伝えたいのかと聞かれると、答えられない。
私には特別な歌唱力があるわけでも、美人なわけでもない。
こんな私が武道館に立っていいのだろうか。
不安や恐怖で私の心はぐちゃぐちゃになっていました。
そんな正直な気持ちをプロデューサーに話すと、
彼はこう答えてくれたのです。

「それでいいじゃないか。
普通の女の子が、夢に向かってがむしゃらに頑張っている。
その姿そのものがメッセージになる」

自分自身の使命に気づかされた瞬間でした。
忘れもしない、二〇一二年四月十日、私の二十六回目の誕生日の時でした。

そうして迎えた武道館ライブ当日。
頭の中は真っ白でしたが、
地方遠征に行くたびに
夜行バスに乗って駆けつけてくださった方や、
気温零度の日に私が素手で演奏しているからと、
ポケットに手を突っ込むことなくライブを聴いてくださった方など、
その他様々な方との想い出が走馬灯のように甦ってきました。

私の楽曲『路上から武道館へ』の中に
「上手く行かなくてくじけそうになると
不思議と誰かが私と出会ってくれた」という歌詞がありますが、
ご縁をいただいた方の一人でも欠けていたら、いまの私はあり得ません。

「苦しくても歩みを止めない時にこそ、
ターニングポイントとなる人が現れる」

この言葉を肝銘し、
きょうも心を込めて歌いたいと思います。
出会ってくださったすべての人に恩返しするために。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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