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三好達治の詩が教えるもの

鈴木秀子(文学博士)

      

(『致知』2013年11月号「人生を照らす言葉」より)

三好達治は、格調高く叙情豊かな作風で知られる昭和期の詩人です。
特定の信仰は持っていませんでしたが、
とても宗教的な感覚に富んだ人で、
弱く、挫折しがちな存在である人間に対して、
大自然は必ずそこから立ち直る力を与えてくれることを、
作品を通じて語りかけてくれ、
読む者の心に希望を与えてくれます。
今回はその珠玉の作品の中から、
『艸千里(くさせんり)』という詩集の
「涙」という詩を読んでみましょう。

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とある朝 一つの花の花心から
昨夜の雨がこぼれるほど

小さきもの
小さきものよ

お前の眼から お前の睫毛の間から
この朝 お前の小さな悲しみから

父の手に
こぼれて落ちる

今この父の手の上に しばしの間
温かい
ああこれは これは何か

それは父の手を濡らし
それは父の心を濡らす

それは遠い国からの
それは遠い海からの

それはこのあはれな父の その父の
そのまた父の まぼろしの故郷からの

鳥と歌と 花の匂ひと 青空と
はるかに続いた山川との

  風のたより
なつかしい季節のたより

この朝 この父の手に
新しくとどいた消息

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詩は、悲しみに涙を流す子供の描写から始まります。
「一つの花の花心から/昨夜の雨がこぼれるほど」という表現から、
子供の切実な悲しみが凝縮して伝わってきます。
父の手にこぼれ落ちた涙は、
しばしの間温かく、温かいがゆえに
子供の悲しみの深さがよけいに伝わるものの、
それに対して何もしてやれない父親の心をも悲しませ、
二人の悲しみが重なり合います。

私たちがこの現実を生きる上では、
胸が張り裂けるような絶望感、
孤独感に苛まれることもあるでしょう。
できればそういう辛い思いはしたくない。
いいことばかり起きてほしいと願うのが人情です。

そうしたところから、最近はプラス思考、
ポジティブ・シンキングの大切さが各所で喧伝され、
ネガティブな考え方が否定的に見られる風潮があります。

物事をプラスに考えることはもちろん大切であり、
それによってよい出来事が
引き寄せられることも真理でしょう。
ただ、私が危惧するのは、
厳しい現実の中でそれを思うように実践できない人が、
いざマイナスに感じられる出来事に遭った時、
それが自分のマイナス思考によって引き寄せられたものと思い込み、
悪いのは自分、自分は駄目な人間、と
自分を責めてしまいがちなことです。
マイナスなことが起こってはならない、
というある種の完璧主義に陥ってしまうと、
自分をさらに追い込んでしまうことになるのです。

人生は必ずしも自分の思いどおりに運ぶものではありません。
積極的に考えることの大切さを言われれば言われるほど、
逆にそのとおりにはいかない現実に直面した時、
大きな葛藤を抱えてしまうことにも繋がりかねません。

人間の本性は決して完璧ではなく、
喜びに満たされることもあれば、
悲しみに打ち拉がれることもあるのが現実です。
大切なことは、その両方を自分で
上手くバランスを取りながら受けとめ、生きていくことなのです。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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