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意識の差が明暗を分ける

坂田栄一郎(写真家)

      

(『致知』2013年10月号「二十代をどう生きるか」より)

遂にアヴェドン氏の助手として撮影に同行できる。
そう思い、私は喜び勇んでスタジオに赴いたが、
与えられた仕事は約二㍍四方の狭い暗室にこもり、
アヴェドン氏が撮った膨大な量の
フィルムを現像するというものだった。

朝九時から夜六時まで同じ作業をひたすら繰り返す。
そんな生活が三百六十五日、休みなく続いた。
周りからは「よくおかしくならないな」と言われたが、
私は全く嫌とは感じず、
憧れの師匠が撮ってきた写真を見られるだけで
嬉しいとの思いで仕事に精を出した。
 
いまの時代、なかなか持続できない人が
多いように見受けられるが、
やはりある一定期間の忍耐を経なければ、
進歩向上することはできないだろう。
とはいえ、仕事を嫌々やっていても持続は難しいもの。
そこで大切なのは、瞬間、瞬間を
楽しく充実させて生きるということだと思う。

私は毎朝、「俺は生きているんだ!
よし、きょうも頑張ろう」と、
お天道様に向かって気持ちを奮い立たせていた。
そういう一年を経て、
本格的に撮影助手の仕事に携わるようになった。

スタジオには、ありとあらゆる分野の方々がやってくる。
そこで繰り広げられる
レベルの高い会話が私には理解し難かったが、
それがむしろ幸いしたのかもしれない。
耳の聞こえない人の視覚や嗅覚が鋭く発達するように、
専門的な英語を真剣になって聞こうとし、
アヴェドン氏の一挙手一投足を見逃すまいと
必死だったがゆえに
感性が研ぎ澄まされていったのだろう。

同じ環境にいても、
ただなんとなくそこに居るだけの者と、
その場から何かを学び取ろうとしている者とでは、
その後の人生は大きく変わってくる。
一日は二十四時間と決まっているが、
その時間をどう使うかによって、
人は成功もするだろうし、失敗もする。
その差を分けるものは、ひとえに意識だと思う。

夜六時、スタジオでの仕事が終わると、
私はカメラをぶら下げ、
タイムズスクエアへと足を運んだ。
そこには人種も宗教も職業も異なる様々な人たちが
実に逞しく生きている姿があった。
私は「Just wait(ちょっと待って)」と、
行き交う人々に声をかけては、写真を撮らせてもらった。

四年間撮り続け、
三十歳の時に「Just Wait」という個展を開いたのだが、
たまたまニューヨークを訪れていた篠山さんが
その作品に感動してくださり、
そこから私の写真家としての人生は
大きく切り拓かれていったのである。

ゆえに私はこう言いたい。
結果はすぐには出ない。一つひとつ積み重ね、
持続していく中で数年後にようやく花開くのだと。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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