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人生のメンバー外になるな

森 士(もり おさむ 浦和学院高等学校硬式野球部監督)

      

『致知』2013年9月号「致知随想」より

二〇一三年四月三日、春の甲子園で我われ浦和学院高等学校は初めて頂点に立った。
苦節二十二年。振り返るといろいろなことが頭の中を駆け巡る。
その都度目の前に敵が現れ、思うようにいかないことの連続であったが、
生徒や家族、守るべき存在がいたからこそ頑張ってこられたのだろう。

今回優勝できた一番の要因は私自身の意識にあると思う。
まだまだ未熟だが、やはりトップに立っている
人間の器を広げないと組織は伸びていかない。
教育とは自分自身を磨くことだと日々実感している。

甲子園優勝は夢のような瞬間だった。
しかし、それ以上に私が誇っていることは、
この二十二年間、春夏秋とある埼玉県大会で
決勝戦に行っていない年が一度もないということだ。

毎年生徒が入れ替わる高校野球では、
時としていい選手が集まらないこともある。
だからといって、「今年は諦めて来年勝てばいい」という
チームづくりは一切してこなかった。
集まってくれた生徒が常に主人公であり、
とにかくいま目の前の代に懸ける。
その積み重ねが成果に繋がったのではないだろうか。

私が今日あるのは
上尾高校時代の恩師・野本喜一郎監督がいてくださったからに他ならない。
大学時代、私は怪我に泣かされ、このまま選手として続けるか、
指導の道に進むか悩んでいた。
野本監督は上尾高校から浦和学院高校に移られていたが、
そんな時、野本監督から
「もし指導者を志すなら、手伝わないか」と声を掛けていただいた。

ところが、である。
大学四年の時、野本監督はすい臓がんで亡くなってしまった。
その年、浦和学院は初の甲子園出場を果たし、
ベスト4まで勝ち進んだのだが、秋の大会では一回戦負け。
選手たちは恩師を亡くした悲しみに打ちひしがれていたようだった。

そんな彼らの姿を見た時に、学校さえ違うものの、
同じ師のもとに集った一人の人間として、
残された後輩たちに何か手助けができないだろうかと思い、
師の亡き後の浦和学院高校を守り立てようと決めた。

五年間のコーチ指導を経て、
監督に就任したのは一九九一年、二十七歳の時。
以来、負けたら終わりという勝負の世界にずっと身を置いてきた。
その中で何が勝敗を分けるのかと考えると、
それは瞬間的集中力の継続、に尽きるのではないかと思う。

私はよく生徒たちに「野球とは人生一生のドラマを二時間に凝縮したもの」と言っている。
その時その時の決断が後の人生を大きく左右するように、
野球の試合も一瞬のパフォーマンス次第で状況は目まぐるしく変化していく。

例えばストライク、ボールのカウントだけで十二通り。
それに加えてランナーが何塁にいるのか、
相手がどういうバッターなのか、いま何回なのか、
何点差あるのか……といったように、
何百通りある組み合わせの中で、
目の前の一瞬をいかに集中できるか。
そこで咄嗟の判断を誤ったり、
流れを読み間違えると勝機を逸しやすい。

瞬間的集中力の継続。
これを養うには普段の生活こそが重要になってくる。
我われ野球部の一日は、朝六時半からの全体練習で始まる。
中には朝五時から個人練習を行っている生徒もいる。
打撃練習は一日約二千スイング。
怪我の原因にもなり得るため、
ただ数を振ればいいというわけではないが、
やはりある程度の数をこなさなければ
感覚は身につかないし、上達しない。

一日の練習が終わると生徒たちは野球日誌を綴る。
その日の練習内容や試合の展開を書き留め、
考えを述べることによって、
自己を内省し、気持ちを整えられるようにする。
つまり、主体性を発揮させることが目的だ。

我われ野球部は三つのモットーを掲げている。

一、自分が自分を高める責任
二、後輩を育てる責任
三、組織全体を高める責任

チームづくりの中でまず求められるのは、
自分が自分を高めること。
これは下級生であっても上級生であっても同じだ。

チームスポーツでよく使われる標語に
One for all, all for one
(一人はみんなのために、みんなは一人のために)とあるが、
これに最後続く言葉は、
but one for one(しかし、自分が自分のために)である。
一番は自己責任であり、自己責任なき仲間意識などは無意味だと思う。

私は毎年、新入部員を全員集めてこう話している。
「四千を超えるチームの中で私が監督をしている
浦和学院高校を選んでくれてありがとう。
私は君たちが甲子園で勝つために最善を尽くす。
そして、これだけは約束してもらいたい。
最後の一分、一秒までレギュラーを目指すこと」

八十四名の全部員のうち、
大会でベンチ入りできるメンバーは二十名、
試合に出られるのは僅かに九名。
心情的には全員入れてあげたいが、
それができないのが高校野球の厳しさである。
たとえレギュラーに選ばれなかったとしても
最後まで戦う姿勢を貫いてほしい。
大事なのはこの先、
人生のメンバー外にならないことだと思っている。

私は現役時代、一度もベンチに入ったことがない
メンバー外の選手だった。
しかし、いま指導者として人生のメンバーにはなれている。
だからこそ、生徒たちにも
一人の男として自らの人生を切り拓く生き方ーー
浦学魂をこれからも伝え続けていきたい。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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