RSS FEED
※キーワードでサイト内の記事が検索できます

若者よ、君たちが生きる今日という日は、死んだ戦友たちが生きたかった未来だ①

八杉康夫(戦艦大和語り部)

      

『致知』2006年7月号「人学ばざれば道を知らず」より)

 大和の後部が白煙を上げているのが私にも分かりました。
 なおも攻撃が続けられ、
 魚雷が的中した時は震度5にも感じられるほど激しく揺れました。
 次第に船は傾いていきます。
 砲術学校では、戦艦は15度傾いたら限界と習ってきましたが、
 25度、30度とどんどん傾いていきます。
 それでも、戦闘中は命令がない限り 
 持ち場を離れることはできません。
 その時「総員、最上甲板へ」との命令が出ました。
 軍には「逃げる」という言葉はありませんが、
 これが事実上「逃げろ」という意味です。
 すでに大和は50度ほど傾いていましたが、
 この時初めて、「大和は沈没するのか」と思いました。
 それまでは本当に「不沈戦艦」だと思っていたのです。

 もう海に飛び込むしかない。
 そう思った時、衝撃的な光景を目の当たりにしました。
 私が仕えていた少尉が日本刀を抜いたかと思うと、自分の腹を掻っ捌いたのです。
 噴き出す鮮血を前に、私は凍り付いてしまいました。
 船はますます傾斜がきつくなっていきました。
 90度近く傾いた時、私はようやく海へ飛び込みました。
 
 *********************************************
 飛び込んだのも束の間、
 沈む大和が生み出す渦の中へ巻き込まれてしまいました。
 その時、私の頭に過ったのは海軍で教わった
「生きるための数々の方策」です。
 海軍に入ってからというもの、
 私たちが教わったのは、ひたすら「生きる」ことでした。
 海で溺れた時、どうしても苦しかったら水を飲め。
 漂流した時は体力を消耗してしまうから泳いではならない……。
 陸軍は違ったのかもしれませんが、海軍では
「お国のために死ね、天皇陛下のために死ね」などと言われたことは一度もありません。
 ひたすら「生きること、生き延びること」を教わったのです。
 だから、この時も海の渦に巻き込まれた時の対処法を思い返し、実践しました。
 しかし、どんどん巻き込まれ、
 あまりの水圧と酸欠で次第に意識が薄れていきます。
 その時、ドーンという轟音とともにオレンジ色の閃光が走りました。
 戦艦大和が大爆破したのです。
 そこで私の記憶はなくなりました。
*********************************************

 気づいたら私の体は水面に浮き上がっていました。
 幸運にも、爆発の衝撃で水面に押し出されたようです。
 しかし、一所懸命泳ぐものの、次第に力尽きてきて、
 重油まみれの海水を飲み込んでしまいました。
「助けてくれ!」と叫んだと同時に、
 なんともいえない恥ずかしさが込み上げてきました。
 この期に及んで情けない、誰にも聞かれてなければいいが……。

 
 すると、すぐ後ろに川崎勝己高射長がいらっしゃいました。
「軍人らしく黙って死ね」と怒られるのではないか。
 そう思って身構える私に、彼は優しい声で
「落ち着いて、いいか、落ち着くんだ」と言って、
 自分がつかまっていた丸太を押し出しました。
 そして、なおもこう言ったのです。
「もう大丈夫だ。おまえは若いんだから、頑張って生きろ」
 4時間に及ぶ地獄の漂流後、駆逐艦が救助を始めると、
 川崎高射長はそれに背を向けて、大和が沈んだ方向へ泳ぎ出しました。
 高射長は大和を空から守る最高責任者でした。
 大和を守れなかったという思いから、
死を以て責任を取られたのでしょう。
 高射長が私にくださったのは、浮きの丸太ではなく、
彼の命そのものだったのです。

次回更新、8月9日(金)に続く・・・。

◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫

「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

『致知』には毎号、心の琴線に触れる記事が満載です。
まだお読みでない方は、こちらからごお申し込みください。

「致知」購読の申し込みはこちら

毎月858円で、人間力が高まります。
 ※お気軽に 1年購読
 10,300円 (1冊あたり858円/税・送料込み)
※おトクな 3年購読 
 27,800円 (1冊あたり772円/税・送料込み)
◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫◫



上に戻る



致知出版社公式メールマガジン「人間力メルマガ」詳細はこちら 携帯メルマガ 致知一日一言

致知出版社公式フェイスブックはこちら ツイッター