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苦しみの日々、哀しみの日々

鈴木秀子(文学博士)

      

『致知』2013年7月号連載「人生を照らす言葉」より)

詩人・茨木のり子さんの詩に、
「苦しみの日々 哀しみの日々」という作品があります。
 分かりやすい詩ですから、そのままご紹介します。

 苦しみの日々
 哀しみの日々
 それはひとを少しは深くするだろう
 わずか五ミリぐらいではあろうけれど

 さなかには心臓も凍結
 息をするのさえ難しいほどだが なんとか通り抜けたとき 初めて気付く
 あれは自らを養うに足る時間であったと

 少しずつ 少しずつ深くなってゆけば
 やがては解るようになるだろう
 人の痛みも 柘榴のような傷口も
 わかったとてどうなるものでもないけれど
(わからないよりはいいだろう)

 苦しみに負けて
 哀しみにひしがれて
 とげとげのサボテンと化してしまうのは
 ごめんである

 受けとめるしかない
 折々のちいさな刺や 病でさえも
 はしゃぎや 浮かれのなかには
 自己省察の要素は皆無なのだから

茨木のり子さんは大正十五年、大阪府に生まれました。
上京後、学生として戦中戦後の動乱期を生き抜き、
昭和二十一年に帝国劇場で見たシェークスピアの
『真夏の夜の夢』に影響を受け劇作家としての道を歩み出します。
その後、多くの詩や脚本、童話、エッセイなどを発表し、
平成十八年に八十歳で亡くなります。

茨木さんの作品はどちらかと言えば反戦色が強く、
過激なものが目立ちますが、
「苦しみの日々 哀しみの日々」はそれとは趣の異なる、
内省的で穏やかな詩の一つです。
おそらく作者自身、いろいろな人生体験を経ていて、
それを克服していく過程でこの詩は生まれたのでしょう。

私たちは人生の中で
時として大きな試練や困難に直面することがあります。
「苦しみなんて嫌だ」
「この苦しみさえなければ幸せに生きられるのに……」
と思ってしまいがちですが、
苦しみをしっかりと受け止め、味わうことがなければ、
自己省察、すなわち自分の内面を見つめることのないまま
かけがえのない人生の時間が過ぎ去ってしまう。
この詩はそのことを私たちに教えてくれているのです。

人間に苦しみが与えられるのはなぜなのか。
それは自己を省察し、
深く自分を見つめるためである、という
茨木さんの考えは
まさに人生の試練に直面した時の
大切な心の姿勢だと思います。

最近、テレビを見ていて感動的だった例を
ここではご紹介しましょう。

それは三・一一(東日本大震災)で
愛するご両親を失った小学生の女の子の話です。
その子は小学校に入学したばかりの頃、
運動会のかけっこで転んで一番ビリになったことがありました。
悔しくて泣きながら応援席にいた
お母さんのところに行ったところ、
お母さんはしっかり抱きしめながら
「よく頑張ったわね」と励ましてくれたといいます。

その子はいま上級生となり、
陸上競技でクラスの代表選手に選ばれるまでに成長しました。
ライバルとの競争心をむき出しにするのではなく、
一年生の頃抱きかかえてくれたお母さんの
愛情や両親の笑顔を思い浮かべながら
自分でできることを
精いっぱいやってきたと話していました。

彼女の素晴らしいところは、
お父さん、お母さんを失った哀しみに
打ちひしがれそうになっても、
そこで止まることなく、
その苦しみを子供ながらに受け止めて、
家族の愛情や思い出を
心の支えにしながら力強く前進していることです。

泣きついてきた子供を温かく受け止めるのは、
どこにでもある母子の情景です。
しかし、その何気ないひとこまが
彼女にはいまかけがえのない思い出、宝となっています。

たとえ姿は見えなくても、
お父さん、お母さんがいつも見守ってくれていると
素直に信じる姿が健気でもあり、
また力強くもあり、
心打たれずにはいられませんでした。

両親と一緒に過ごした期間は
決して長くはなかったかもしれませんが、
注がれた深い愛情は
これからの人生においても
彼女を支え続けるに違いありません。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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