三代先の子供たちのために

三代先の子供たちのために

倉 秀人(美健ガイド社社長)

 

(『致知』2012月8月号 より)

 
私の人生に転機が訪れたのは三十歳の時。
ある一冊の本との出逢いがきっかけだった。

高校卒業後、職を転々としていた私は、
たまたま地政学者・倉前盛通氏の『悪の論理』を読み、
その内容に衝撃を受けた。
「大東亜戦争が勃発したのは、
日本に資源や食糧がなかったからだ。
これから先、世界を動かすのは第一にエネルギー、
第二に食糧、第三に情報である」

これら三つのことを考えた時に、
自分が石油やウランなどのエネルギーを扱うことはできない。
しかし、農業や漁業は誰にでも始められる。

また、いざという時、
食糧さえあれば生き永らえることができる。
私は地政学に出逢い、考え方が百㌫変わった。
そして、「人生の最終目標は農場を経営すること」
との思いが湧き上がってきた。

ただ、突発的に私が一人で農業を始めたところで、
高が知れているし、周りの人を巻き込むような人脈もない。
そこで、まずは食と健康に関する情報を
発信することで同志を募ろうと考え、
勤めていた印刷会社を退職。
昭和六十二年に美健ガイド社という出版社を設立した。

しかし、刊行する文庫本はなかなか売れず、
厳しい経営状態が九年間続いた。
そして、九年目の年の十二月。
このままでは行き詰まってしまうという危機感を抱いた私は、
「来年は新刊を出さない」という決断を下した。

出版社にとって新刊を出さないというのは命取りであって、
特に我が社のような零細企業は一か月出版を止めたら、
倒産しかねない。
しかし、敢えて私は新刊を出さずに、
既刊の売り上げと銀行からの融資で一年間食い繋ぎ、
その一年の間でこれから先の展望を見出そうと、
腹を括ることにした。

自らを追い込み、朝から晩まで、二十四時間ずっと考えた。
食事をしている時も、寝ている時も、
頭の片隅から離れることはなかった。

そして、翌年の九月末のこと。
新聞の小さな記事が目に飛び込んできた。
そこには、ある大学の実験で、
文字の参考書を使ったグループと漫画の参考書を
使ったグループで『源氏物語』の試験を行ったと書かれていた。
その試験結果を見て、私はハンマーで頭をぶん殴られたような
衝撃を受けた。

文字の参考書を使ったグループの平均点は、
百点満点の二十七点。ところが、
漫画を参考書に使ったグループは、なんと八十七点だった。

「あぁ、そうか。
俺が伝えたい情報を今までのような文字の本ではなく、
漫画にすれば、読者にも伝わるんじゃないか」
私はその日のうちに、漫画への大転換を決断した。

漫画に切り替えてからも経営は火の車。
借金も二億円にまで膨らんだ。
しかし、三年ほど経った頃から、
商品開発秘話や経営者人物伝など、
企業PRの一環として漫画を用いたい
という依頼が徐々に増えていった。

「漫画を使って業績が伸びた」と、口コミで広まり、
おかげさまで今では三年先の仕事が埋まるまでになった。

そして、食や健康だけでなく、
子供たちに日本の正しい歴史を伝えたいという思いから、
平成十四年にNPO法人ふるさと日本プロジェクトを設立。
『日の丸物語』『教育勅語』『薩摩義士伝』など、
教科書では教えないふるさとの歴史や先人たちの偉業を、
漫画を通して子供たちに伝えており、
現在はその両輪で事業を展開している。

もしあの時、中途半端な気持ちで
中途半端なことをやっていたら、
おそらくあの新聞記事を目に留めることもなく、
会社も存続できていなかっただろう。

たとえ新聞や本を読む時でも、
「それらの中に宝物が埋まっている」
と信じて読んでいれば、
自分が求めていた答えに出逢うことができるのだと思う。

「どんな小さなことでも手を抜かず、
真剣に、一所懸命やる」というのが私の鉄則である。
そうすれば、必ず天の助けが降り注ぐのだと信じている。

振り返ると、私の生きる姿勢を創ったのは高校時代、
先生からいただいた言葉が原点だったと思う。

私は鹿児島県の生まれで、鹿屋市にある高校に通った。
知覧は戦前、陸軍の特攻基地があった場所として有名だが、
鹿屋は海軍の特攻基地があったところだ。
高校の先生方は皆、戦争を経験しており、十四、五歳の時、
勤労奉仕で鹿屋の航空隊に連れて行かれ、
B29の爆撃でぼこぼこになった滑走路の補修をしたり、
特攻隊員の世話をしたりしていた。

そして、毎日沖縄に向かって飛び立っていく
十七、八歳の若い先輩たちの姿を見送っていたという。
そういう経験をしてきた人が大半だっただけに、
とにかくスパルタな学校で、
「一日、三時間以上寝るな。
でないと志望校に行けないぞ」と言われてきた。

そして、テストの一か月前になると、
試験の予告が発表されるのだが、
二百点満点のテストで、百五十点取れないと、
先生は決まってこう言い放った。
「貴様ら、一か月前に言うとったにもかかわらず、
この点数はなんじゃ。
ちょうど戦時中、いまの貴様らと同じ、十七、八歳の先輩たちが、
二時間半後、三時間後には沖縄で百㌫死ぬと分かっているのに、
一所懸命英文法の勉強をしていた。
数学の微分・積分を解いていた。命懸けの勉強と思わんのか」

この言葉は今でも私の心の中に生きている。
先人たちが命を犠牲にして守ってきたこの日本を、
後世に残していく責任が私たち大人にはある。
「三代先の子供たちのために、
日本の正しい歴史、食、健康を伝える」。
その使命を死ぬまで全うしていく覚悟である。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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