ひめゆり学徒たちの祈り

ひめゆり学徒たちの祈り

本村つる
(財団法人沖縄県女師・一高女ひめゆり同窓会理事長、
 ひめゆり平和祈念資料館元館長)

 

(『致知』2011月11月号 より)

 
ひめゆり学徒だった私たちが
沖縄戦の惨状を伝える巡回展を行ったのは、
平成二十二年(戦後六十五年目)のことです。

沖縄にはいまも多くの米軍基地があります。
激しい地上戦を体験しているため、
我々世代の県民は決してあの戦争を忘れてはいません。

しかし昨年、新聞社の方から
「今年は戦後六十五年目の節目ですよ」と言われた時、
私は「あぁ、もう六十五年か……」と
不意を衝かれたようになり、
「次の七十年の節目には元気な声を聞いて
もらえないかもしれない。
いまの若い人たちに戦争の惨めさや恐ろしさを
伝えるにはいまがいい機会かもしれない」と、
三十年ぶりとなる巡回展
(前回は朝日新聞社主催「ひめゆりの乙女たち」展)を
開くことを皆で決めました。

戦時中、沖縄師範学校女子部と
沖縄県立第一高等女学校から
沖縄戦に動員されたひめゆり学徒二百四十人のうち、
百三十六人は戦死。

その悲惨な体験を証言している元学徒の数はだんだん減って、
私を含め十四人になりました。
巡回展では沖縄戦で亡くなった友人たちの遺品を展示し、
私たちも証言者として全国五か所を訪れました。

企画に当たっては、体験者と学芸員が一緒になって
綿密な話し合いを重ねました。
実際に主として動いてくれたのは、
次代を担うひめゆり平和祈念資料館の学芸員の皆さんです。

私たちは元気なうちにすべてのことを学芸員に
バトンタッチしなければと考えていますが、
その点でも非常によい機会になったと感じています。

私は戦後、小中学校で三十一年間教壇に立ち、
退職後にひめゆり平和祈念館資料館の運営に関わってきましたが、
自分の戦場体験を語れるようになったのは
戦後四十年を経てからのこと。

それまではあまりの辛い記憶に、
親しい友人や家族にすら話をすることができませんでした。
特に忘れられないのは、ある友達と、
死ぬ時は一緒にねと交わした約束のことです。

私たちは壕の中で看護活動に当たっていましたが、
解散命令が出たので、壕の外へと飛び出しました。
その際、一緒に壕を出た友人の一人が敵弾を受け、
負傷してしまったのです。

まったく身動きのできなくなった彼女を
担いでいくわけにもいかず、
「このお友達をしばらく預かってください。
後で迎えに来ますから」と
近くの海岸防備の兵隊さんにお願いし、
その場を離れました。

ところが爆撃がおさまった頃になって
彼女の元へ戻ろうとすると、
そこは黒煙がもうもうと立ち上っています。
おそらく米軍の火炎放射器で焼かれてしまったのでしょう。

友達との約束は結局果たせず終いでした。
このことは戦後も心中深く残り、
あの時は仕方がなかったと言えるのどうか、
これは弁解じゃないのか……。
私もそこに残るべきだったのじゃないか、
という後悔の念が胸を去りませんでした。

生き残った私が戦争について語ること自体、
非常に強い葛藤があります。
元学徒たちは皆、
少なからずそういう体験を抱えています。

私が長い間、戦争について語れなかったのも、
亡くなってしまった人たちに対して、
自分の生き残ったことが大変すまない、
申し訳ないという気持ちがあったからです。

しかし戦後四十年近くが経った頃、
恩師の仲宗根政善先生がひめゆりに関する本を
出版されたりしたことから、
資料館を建てようという動きが起こりました。

といっても、校内にあった現物資料は皆、
戦火で焼失しています。
自分たちのいた壕へ行けば、
遺骨や遺品が見つかるかもしれないと
戦後四十年目に皆で元いた壕に入りました。

筆箱や三角定規などの学用品・櫛・鏡・時計等を
収集しました。
中には記名が残っているのもありました。

戦争が終わったら、
学校に戻ってまた勉強するのだという考えで
大事に携えていたのでしょう。
それらを拾った時に、私は、
自分たちがちゃんと伝えなければ、
という気持ちを強く感じました。

資料館の開館から今年で二十三年が経ちますが、
来館された方々から
「どうすれば平和な世の中になりますか?」
という質問をよくいただきます。

大変答えにくい問いですが、私はそんな時、
「戦争の実相を知ることと、
戦争の惨めさや平和の大切さを、
展示物や証言者の言葉を通して
体得してもらえるものがあるはずです。
平和な世の中にするにはどうすればとは、
自分が考えることだと思います」
と答えるようにしています。

戦争を知らない世代の人に、
その体験を伝えるのは難しいことですが、
私たちはこれまで学芸員の人たちと戦跡を辿りながら、
現場で証言をしてきました。

最近では彼らも戦争のことだけでなく、
私たちのそれまでの人生や、
生きてきた思いを知ることによって、
すべてを受け継いでいきたい
という思いでいてくれているようです。

当館では、来館した方に感想文を書いてもらっています。
毎年二万通ほどありますが、
それを三百㌻ほどの冊子に纏めています。
私たち元学徒は、あの戦争で亡くなった方たちの
もの言わぬ声や思いを伝える代弁者でもあります。
そうした活動の一つひとつが
彼女たちへの鎮魂になればと願いながら、
平和の大切さ、命の尊さを語り続ける日々です。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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