平澤興(京都大学元総長)
(『致知』1985年12月号より)
生きるとは、情熱をもって燃えることだと思います。
燃える心を忘れているような生き方は、
気の毒な生き方ではないでしょうか。
(インタビュアー:
“人を燃やし、喜びを与えていくことが最高の生き方であります”
と先生は言っておられる)
だろうと思います。
しかし、なかなか、こちらの気持ちが
そのまま通るというのは、いつでもではないな。
やはり、それだけのものがお互いにないとね。
それと、賢いと燃ゆることができないですね。
燃ゆるためには愚かさがいる。
愚かさは力です。
(インタビュアー:愚かさは力ですか)
それは、私は40年間、大学にいて、そう思います。
だから、優等生もいいけどね。
優等生のやり得る仕事は大抵、型が決まっている。
本当に世の中に大きな光を与えるのは、
必ずしも、いわゆる優等生だけではない。
部長とか課長とか、そんなところに
さっとなるのは優等生が多いようですが、
日本の将来に大きな変化を与えて、
自ら進むべき道を断固として守っていくというようなのは、
むしろ優等生でない方に多いくらいです。
だから、やっぱり、ある意味では愚かさね。
損とか得なんていうことは考えないで、ひたむきに行く人ですね。
(インタビュアー:
そういえば、器用な人ではだめだといわれていますね)
あぁ、これは本当にそうです。
私の友達の青柳安誠。
京大の外科部医で、外科では日本一の人です。
この人がいってましたが、
仕事は祈りである、と。
執刀する瞬間、祈るんですね。
最善を尽くすだけじゃ、まだ足らないんで、
どうぞ、この手術がうまくいきますようにと、祈る。
これはやっぱり、すごいと思います。
この男が、
「器用な人では外科の名人にはなれん」といっていました。
それはね、いろんな外科の方式がある。
長い歴史を通してね。
人によっては、血管の走り方が違ったり、
神経の走り方が違ったりしている人がある。
そういう場合までも考えて、
間違いを起こさないようにというのが、
長い伝統の手術だそうです。
ところが、器用な人がやるとね、目先だけでさっとやる。
一見誠に器用だが、時に思わぬ間違いを起こす。
何分間で盲腸の手術をしたなんていうのは、
これは愚かなことで、そういう医者は
もう本当の意味で一人前の医者ではないと思う。
誰がやってもできるようなことにも、
なお祈りをこめて、
百やれば百、絶対に間違いを起こさんという、
これが真の名人だ、と。
私もそうだと思います。
新聞、雑誌などをみてると、
世の中は悪人ばかりのような気がするが、
にもかかわらず、世の中が何となしに前へ行ってるのは、
世間でいうほどは悪人ばかりでなく、
いい人が案外多いということじゃないかと思ったりしています。
普通、みえないところで、
いいことをしている人が多いのですね。
だから、社会はいわゆる有名人に支えられておるよりも、
むしろそういう人たちに支えられておるのではないでしょうか。
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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。
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