「運命を変えた女性教師との出会い」

「運命を変えた女性教師との出会い」

碇浩一(精神科医、元福岡教育大学教授)

 

(『致知』2011年6月号 特集「新生」より)

 

(11歳の時)腎臓の摘出手術を終えてしばらくすると、
 高松に国立結核療養所ができましてね。
 
 結核の子の就学援助を行う教室で
 僕も勉強するようになりました。
 
 じっとしていない腕白小僧でしたから
 看護師さんも手を焼いていましたが、
 そこで北岡昌子という先生に出会うことができました。
 
 この先生との出会いが僕の運命を変えるんです。

 北岡先生はもともと学校の先生です。
 しかし僕のように肺結核を患って
 その療養のために高松診療所に通院しておられました。
 
 その合間に保健学級の先生をしていたんです。
 二十代後半だったでしょうね。色白で寡黙な先生でした。

 先生は僕たちのような病気の子でも
 特別視することがまったくありませんでしたね。
 
 「君は病気だから無理することはない」と言う代わりに
 「このくらいできるはずだ」と。
 分からない問題があってふて腐れているような時は
 
 「でもここまでできたんだから偉いじゃない。ここはね……」
 
 と根気強く教えてくださるんですよ。

 北岡先生は歌人でもありましたから、
 言葉や感情表現をとても大切にして、
 思いついたことや話し足りないことを手紙にして、
 よく病室に持ってきてくださいました。
 いまも大切に持っています。

 <碇君と話していると時間の経つのが早いのに驚きます。
  碇君は子どもとは思えないほど、
  ことばに対して鋭いセンスを持っていると私は思います。
  
  今日、貴方は日と陽は同じ物を指しても
  陽の方はあたたかさを感じるとおっしゃいましたね。
  本当にその通りです。
  
  それを感じ得るのが詩人の心なのです。
  あたたかさと云う言葉も
  「温か」と云うのと「暖か」と云うのでは感じが違いますね。
  よく味わってみなさい>

 <貴方は病気ばかりして学校も行っていないし
  辛い生を送っているけれども、
  言葉に対する感受性はとても素晴らしいものがありますね>

 痛いのを我慢したとか約束を守ったとか、
 そういうことではなく、それ以外の僕の
 あるかどうか分からない才能について
 正面から褒めてくださったんです。
 
 赤の他人の僕をどこまでも励まし、信じ、
 褒め続けてくれた人。それが僕にとっての北岡先生でした。

 ある時、僕は小学一年の時の通知票を先生に見せたんですよ。
 知能指数66とあるのを見て
 急に真面目な顔になって
 
 「これは違う。これは間違っている」
 
 と怒るように言われたのをいまも覚えています。
 自分で勉強は駄目だと思っていましたが、
 その一言に随分勇気づけられました。

 こんなこともありました。
 先生からもらった手紙に、バスの中で読んだ
 歌誌の中にあったという言葉が書かれてあったんです。

 「掘りおこして捨てなければならぬ芥水を
  汲み上げ汲み上げしているうちには、
  少量でも清水が湧くかも知れない」

 そして
 
 
 「静かな時を利用して、よく考えてごらんなさいね」
 
 
 と言葉が添えてありました。

 僕はよくよく考えて思ったんです。
 自分は頭もよくないし回転もよくないし、
 何をやっても駄目かもしれないけれども、
 気持ちを逸らさずに進んでいけば、いつかはものになる、
 そういう意味だと。

 この北岡先生のおかげで
 療養所の児童病棟を出る頃には
 卒業証書をいただくことができました。
 
 先生はその後も折に触れてお手紙をくださり、
 励ましてくださいました。
 いまの僕があるのは、まさに先生のおかげなんです。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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