「“札付き”だった支店長の勇断」

「“札付き”だった支店長の勇断」

佐々淳行(初代内閣安全保障室長)

 

(『致知』2011年6月号 特集「新生」より)

阪神・淡路大震災の時も、神戸市民は実に立派でした。
略奪もないし、整然と行列をつくって
配給物資を受け取っていた。
八方から手が伸びて奪い合う場面はついぞなかったんです。

しかし、東北の避難民の方は、それ以上に立派でしたね。
もともと忍耐強い土地柄だし、とにかく市民のレベルが高い。
日本人のガバナビリティーは
世界に冠たるものがあると改めて確信しました。

僕が今度の震災で感じたことを一言で言ったら、
日本国民のガバナビリティー(被統治能力)の高さでした。

それで一つ思い出したのは、阪神・淡路大震災の時、
日銀の神戸支店長に遠藤勝裕という傑物がいたんです。

ジェット機が落ちたかと思うくらいの
轟音と激震に遭遇した直後、
自分がこの大災害に際して何をすべきかを考え、

「そうだ。俺の役割は町に紙幣を出すことだ」

と気づくんですね。

日銀の支店は設備の損傷はあったが、
幸いにも大金庫が無事だった。
遠藤さんはそれを開けちゃうんですよ。
 
緊急時に普通は閉める大切な金庫を、逆に開けてしまう。
そしてそこにあった札束を全部取り出し、
紙幣の流通を止めなかったんです。
 
本人は「兵庫県一日分の金額が入っていた」と言っています。
だから何十億円でしょう。

そして次は被災地の民間銀行が
壊れていないかを点検するんです。
そうしたら日銀のほかに一つだけ壊れていない銀行があった。
 
すると三日後には、そこと日銀神戸支店内に、
被災して休業中だった各銀行の支店の
臨時窓口を開設するわけです。
さらに兵庫県警本部に連絡を入れて警備を要請した。
 
普通なら各支店に配置しなくてはいけない
百~二百人の警察官が二か所で済むわけだから、
本部長も随分助かったと話していました。

もっと凄いのは、震災当日のうちに
金融特例措置という五か条の布告を
独自の判断で出したんですよ。
 
例えば通帳や判子がなくても身分証、免許証を
提示したらお金が借りられる、
半焼けの紙幣は普通の紙幣と交換する、といったもので、
もちろんこんなことを日銀本店や大蔵省本省が
すぐに承認するわけがありません。

ところが、大蔵省の神戸財務事務所長というのがまた傑物でね。
これを決裁するんです。そしてこのルールでどんどんお金を出す。

こんな話もあります。
 
遠藤さんが震災後、市内を視察すると、
コインを持たない被災者が自動販売機を
蹴っている様子を目にするんです。

「そうか、物があってお金がないと暴動が起こるな」と。
 
そこで銀行協会に申し入れて、
百円玉九枚と十円玉十枚を入れた千円の袋を四千袋つくり、
避難所に行って
「銀行協会からの義援金でございます」と渡して歩くんです。

 
その方は本当はクビだったんです。
なにせ日銀のあらゆる掟を破ったわけだからね。
僕は遠藤さんとは一面識もなかったんですが、
解任だと聞いた時はカッときて日銀の役員に電話で談判しました。
 
 
「遠藤さんを辞めさせると聞いたけれども、本当か」
 
「いや、いま内部でそれが問題になっているところです」。
 
 
聞いてみると、災害に遭った地域を救済するために
過去に何度かこのような超法規行為をやっていた
“札付き”の支店長だったらしい。

日銀内部は
「とんでもない日銀マンだ」
「これこそ日銀の鑑」
という二つの意見に分かれていて、僕はその日銀役員に
 
「彼のような功労者をクビにするなんてとんでもない。
本店に栄転させなさい」
  
と強く言いました。
それが聞き入れられたのか、
遠藤さんはクビにならずに調査役になりましたよ。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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