「美容室の天使」

「美容室の天使」

北川八郎(陶芸家)

 

(『致知』2004年7月号連載「三農七陶」より)

四月は三越での個展もあって
東京滞在が一か月近くになった。

その間たくさんの人々と出会った。
たくさんの方々にお世話になった。
そしてたくさんの生き方を見た。

その人たちの中に天職を得て
(本人はそう思っていないかもしれないが)、
天使になった人たちがいるので紹介したい。

先日、武蔵野の吉祥寺にある
ラッシェルという美容院に招かれた。
そこで働く美容師さんたちが皆、実に仲がいい。
笑顔がヒマワリのようだ。

 

そこに一人の天使がいる。

 

顔の丸い、笑顔の素晴らしい青年だ。
何か生き生きとしている。

 

その彼、西村君は幼い頃から、
いつもワンテンポ遅れるので成績もいまいちだった。

仕事に就いても上手でないために叱られてばかりいた。
しかし、一つだけ素晴らしい性質を持っていた。
それは素直さだった。

美容室の採用試験の時、経営トップだった大野さんが面接し、
彼のヤンキーな衣装のひどさにかわいそうになり、
つい一言忠告した。

「君ね。その言葉遣いと、そんな服装では、
あなたをどこの会社も採用してくれないよ。
ウン! スン! と返事をしないでハイに直し、
背広に身を包んできなさい」

と言われ、二日後人から借りた寸足らずの背広で
態度も変えて、再度面接を受けたのである。

その日は大野さんは出張で、
オーナーの日向さんが受け持ったため合格してしまった。

後で知った大野さんは苦虫をかみつぶした顔で
オーナーに迫った。

日向さんは

「いろんな人がいたほうがいい。
彼のいかにも借り物と分かる背広姿が
私の心を打ったの」。

日向さんの見込み通り、西村君は天使になった。

彼は人から何を言われても美容師という仕事が好きな上、
先輩から「ヘタ、遅い」と言われても、
それを苦にとらず、早く仕事をする工夫や、
どうしたら、例えばクシ洗いも
きれいに仕上がるか丁寧に見直した。

そのおかげでささいな作業でも誰よりも速く丁寧で、
きれいにできるようになった。

自分の苦手なカールという仕事などは上手な先輩に譲り、
傍で見学した。

いろいろな先輩の苦情もやわらかく受け止め、
素直に仕事を工夫していったのである。

いまではそれが生き方になり、その会社において
「なくてはならない存在」になってしまったという。
日向さんから「彼なくして会社はまわらない」とまで信頼され、
新人たちの鑑になり、しかも指導者の一人に選ばれ、
尊敬されている。

大野さんも「実にいい顔になった。私が恥ずかしいくらいです」
と言われる。

素直とはなんと素晴らしい性質だろう。
笑顔で周囲を救い始めたのである。

       (略)

私の二十代、三十代の頃、
大野さんたちのように、人のために祈り、
人のために人生を尽くそうとしただろうか。

 
過去を消せる消しゴムがあったなら、
あれこれの汚れを消したい思いで一杯だ。
天使たちは皆笑顔がすばらしく、やさしい目をしている。

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「人間力.com」は月刊誌『致知』より引用しています。

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